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2019年1月 9日 (水)

いだてん1話 小ネタ考察 嘉納治五郎と柔道慰心法

2019年大河ドラマ『いだてん』が始まりました。
1話は1964年東京オリンピック招致決定と、1912年ストックホルムオリンピックに日本が参加することを決意する、2つの歴史的流れを平行して描きながら、キー人物として嘉納治五郎がプレ主人公でした。

その中で人物達の会話劇、思想はフィクションとしても、辻褄合わせ的考察。


東京高等師範学校校長・嘉納治五郎
「楽しいの?楽しくないの?オリンピック」

東京高等師範学校教授・永井道明
「愉快な話ではありません。体も心も未熟な若者に一国の命運を託するという意識が何を生むか。ドランドの悲劇。走る意思のない選手をよってたかって引きずり回しゴールに押し込んで、勝ち負けに拘る人間の醜さを競技スポーツの弊害を私は見ました」
嘉納「面白くないね」
永井「肉体的に未熟な日本人が走ったら死人が出ますよ」

日本体育会会長・加納久宜
「体育です。我が日本体育会は優秀な体育指導者を育成する団体です。体育は教育。子供達に健康な肉体を授けるのが我々の使命」

嘉納治五郎
「子供達のはじけるような笑顔は本来平和のためにあるはずなのに」
早稲田大学総長・大隈重信
「残念ながら今の御時世、あなたのような考え方は異端でありましょうな。戦勝国となった日本国民にとって勝負とは命懸け。競技スポーツの意義を説くのは至難の技である」
嘉納
「そこですよそこ。戦争に勝ったからこそ今度はスポーツで日本が世界に打って出るそのチャンスですよ。オリンピックの精神に共鳴するものはこの日本にいないということが私は不甲斐ないです」


嘉納治五郎は、本来、日本体育会会長・加納久宜と同じく体育を教育とみなし、子供達に健康な肉体を授けることも使命と考えていた人物でしょう。

以前の記事、柔道の修行の目的についてでも書きましたが、嘉納は柔道においても「勝負法」(武術)と「修心法」(教育)と平行して「体育法」(体育)を推奨しています。

柔道において最初のその区分を発表した講演「柔道一班並二其ノ教育上ノ価値」が1889年。
その後、その三目的に加えて新たな要素、「慰心法」について言及したのが1913年。

1913 (大正2) 年,嘉納は「柔道概説」に「柔道は柔の理を応用して対手を制御する術を練習し,又其理論を講究するものにして,身体を鍛錬することよりいふときは体育法となり,精神を修養することよりいふときは修心法となり,娯楽を享受することよりいふときは慰心法となり,攻撃防禦の方法を練習することよりいふときは勝負法となる」と記しています。

1913年と言えば、ストックホルムオリンピック(1912年)の翌年。
クーベルタン男爵の思想に触れ、実際にオリンピックに参加した上で、柔道にもその影響を加えたと言うことでしょうか。

実際嘉納は、当時の体操が面白みが少なく、学校教育が終わってしまえばそれを続けることが嗜好という意味でも困難であることに言及しています。
その上で、学校教育が終わってからも継続をするためには、面白みを必要とすることを述べています。

ただ、その流れの一方で、柔道においても嘉納治五郎存命中にも熱中する者が多くなってしまい、その弊害、あたかも『いだてん』作中で永井道明が語ったような「勝ち負けに拘る人間の醜さを競技スポーツの弊害を」行う者が次第に出て来ますと、嘉納治五郎の発言からは、「慰心法」への言及はなくなっていきます。


嘉納治五郎自身はIOC委員としてスポーツ全般の国民的普及とオリンピック参加を推奨しながら、柔道についてはスポーツ以上のもの(スポーツ以外の要素を含むもの)と見なし、文武両道の道として別の世界展開を構想していました。
それは競技スポーツの弊害も充分に熟知し、それを忌避する考えもあってのことでしょうか。

「体育法」とそこから派生した「慰心法」。本来ある「修心法」(教育とその社会生活への応用)と「勝負法」(真剣勝負の武術要素)。
競技化の進んだ現在の、嘉納治五郎没後の柔道で、それら柔道の様々な目的について『いだてん』の会話劇で繰り広げられるスポーツ論も分解しながら参考に照らし合わせ、
再び考察し原点回帰し、何が弊害で何が利点なのか考えてみる良い機会にもなるのかと思います。

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